1. Discussionの構造と結果のまとめ
初学者が最も苦労するところで、論理構成と英語の表現で頭を抱えることになると思います。Discussionの書き方は流派がありますが、筆者らは基本的に下記の構造を意識しています。BMJなどはある程度書き方の指定がありますが、実は基本的な構成がしっかりしていれば、多少無視しても大丈夫だそうです(BMJに何本も通している知人のいち意見です)。
- 結果のまとめ
- 過去の研究結果との比較、関連
- 研究結果の考えうるメカニズム
- 研究の意義・強み(implications / strengths)
- 研究限界(potential limitations)
- 結語(conclusions)
まず「この研究の結果は○○でした。またこのような発見がありました。」というイメージで、3−4文で結果をまとめます。1パラグラフでA4 1/3〜1/2ぐらいになります。またこの段落の最後にさらりと核になるメッセージを入れれると良いです。
この時、研究デザインや症例数に「売り」があるならその文章を最初に持ってくると印象が強くなります。例えば、症例数が10,000を超えるコホート研究においては、In this prospective cohort study of 10,521 patients, we found that **のような形です。このように記載する事で10,000例を超えるデータなんだなと再度印象付ける事ができます。
またこの段落で時に「To the best of our knowledge, this is the first study that ***」と書くかどうか問題がありますが、これは自由にすれば良いと思います。個人的にはあまり必要はないかなと思うのですが、書くことが無くて知見をアピールしたいのであれば良いのではないでしょうか。
In this analysis of nationally-representative data from 52,037 ED visits by children, we applied modern machine learning approaches (i.e., Lasso regression, random forest, gradient boosted decision tree, and deep neural network) to ED triage classification, and improved the overall discrimination ability to predict two clinical outcomes – critical care and hospitalization outcomes, as compared to the model using conventional triage approaches. (Goto T et al. JAMA Netw Open 2019;2(1):e186937)
2. 過去の研究結果との比較
2段落目の目的は、過去の研究のなかで自分の研究結果の位置付け(Results in the context)を行うことです。
そのために過去の研究との比較が必要になります。書き方としては、似ていない研究から紹介して、次に似た研究を紹介して自分の知見をサポートします(ケースバイケースですが)。そして過去の研究と比べた場合に、過去の研究の研究限界を軽く述べられると効果的です(ただし、その研究者に査読が回ることがあるので、強調しすぎずにあくまで客観的に述べる)。
例えば、過去の研究が記述研究で、自分たちの研究が仮説検定研究である時には “While the prior descriptive study reported the ***”のようにさらりと記述研究であることを強調することで自分達の研究の良い点を強調させます。この段落は”Consistent with our findings, a prior study reported that ***”のようにconsistentという単語をうまく使うと書きやすくなります。同様に締めの文章として「自分たちの研究が前の研究の上に成り立っており、今回の研究はそのエビデンスをさらに延伸する」 という決まり文句を使うことで段落が引き締まります。
However, the development of accurate ED triage system for children remains challenging. The literature has demonstrated that the currently-available triage systems (e.g., pediatric Emergency Severity Index) are subject to the provider’s subject and have suboptimal discrimination ability. Although adding a larger set of predictors (e.g., detailed history of present illness, serial measurements of vital signs, physical examination) to a prediction model might improve the ability, it is not feasible at the ED triage setting due to the limited information, resources, and time pressure. —(中略)— The present study builds on these prior reports, and extends them by demonstrating the superior ability of modern machine learning approaches on predicting the clinical outcomes and disposition in a large sample of ED visits by children.(Goto T et al. JAMA Netw Open 2019;2(1):e186937)
3. 研究結果の考えうるメカニズム
まずは自分の研究結果から論ずることが理想です。それが不可能ならば過去の研究結果から自分の結果をサポートするような研究をバランスよく引用します。最後にそこから自分の研究は何を訴えることができるのかを明確にしましょう。結構やりがちなのが、ただ過去の研究を羅列してしまうことや、自分の研究結果から飛躍した論理展開をしてしまうことです。事実と推測は分けましょう。
違いを説明する際にも具体的な数字を出すなどして、「ぼやっ」とした文章にならないように。また主要雑誌に自分の結果と反する研究があった場合は触れないわけにはいかないので、理由付けを頑張って行い、自分の研究の長所を強調しましょう。
The underlying mechanisms of our finding are likely multifactorial. For example, the complexity of overlapping comorbidities among obese patients (e.g., congestive heart failure, gastroesophageal reflux) plays an important role in the link between obesity and acute exacerbation of COPD. However, adjustment for these comorbidity measures did not substantially influence our findings. Other plausible mechanisms include obesity-associated restrictive ventilatory patterns and decreased residual volumes, altered gut microbiome that modulates host immune response, and systemic inflammation secondary to adipose tissue–derived proinflammatory mediators. (Goto T et al. Ann Am Thorac Soc. 2018 Feb;15(2):184-191)
4. 研究の意義・強み(implications / strengths)
自分の研究が誰にどのように影響を与えるかを述べます。臨床研究であれば臨床医、研究者、医療政策策定者のうち最低2者それぞれにどのような意義があるのかを具体的に書いてください。気道管理の研究をして、「自分の研究は気道管理にimplicationを与える」とするのはダメです
自分の研究により、どのように行動を変える必要があるのかを説く必要があります。特にここは「一見良さそうなことを言っているけど具体性に乏しい」美辞麗句のオンパレードになりやすいので、具体的に書いて説得力を持たせる必要があります。賛否両論ありますが、 論文を強く終えることができるため筆者らはImplicationsはConclusions に含めることを勧めています。
The machine learning approaches achieved a high sensitivity for predicting the critical care outcome. Specifically, these approaches would reduce the number of under-triaged critically-ill children in the conventional triage levels 3-5 – i.e., children who would be “missed” by the conventional approaches. Additionally, while the conventional approaches may help clinicians better identify children who require hospitalization, the machine learning approaches had a higher specificity for predicting the hospitalization outcome which would avoid over-triaging less-sicker children who may not require excessive ED resource. (Goto T et al. JAMA Netw Open 2019;2(1):e186937)
5. 研究限界(potential limitations)
疫学研究においては内的妥当性(選択バイアス、情報バイアス、交絡因子など)や外的妥当性(システム・環境の違い)を述べます。過去の類似した研究のlimitationsを参考にするのもひとつの方法です。Limitationsのない研究はありません。 ポイントは、査読者が気づくであろうlimitationsは隠さずに書いておくことです。しかしながら、それに対する反論も付け加えておくことも大事です。Yet, nevertheless, howeverなどを用います。ここはいくつかのスタイルがありますが、筆者らはlimitationsを述べた後にその影響を最低限にする努力(例えば感度分析)をしたことを明記するのをお勧めしています。
中には「意図的に突っ込まれるであろうところをあえて残しておく」とい強者もいますが、初学者の段階では自分の理解している研究限界を把握し、査読を受ける方が良いでしょう。
例1)XとYに関連があることを示したが、因果関係を証明するものではない→しかし超緊急の状況でランダム化比較試験をするのは現実的ではない。
例2)平均患者年齢が高い点に関しては、若年患者に絞った分析でも結果がほぼ同じであることを確認している。
Our study has several potential limitations. First, we excluded visits with no information on the conventional triage classification information, which might be a potential source of selection bias. Nevertheless, the patient characteristics and outcomes were comparable between the analytic and non-analytic cohorts, arguing against significant bias. Second, the machine learning approaches are data-driven and, therefore, depend on accurate data. While survey data might have some misclassification, the coding error rate was <1% in 10% quality control samples of NHAMCS. (Goto T et al. JAMA Netw Open 2019;2(1):e186937)
6. 結論・結語(conclusions)
これはDiscussionの一部として書く場合と、別に分ける場合があります。シンプルがゆえに結構難しいですが、メインメッセージを数行で書きましょう。論文によってはimplicationsをここにくっつけてしまう事もあります。
筆者らはここにDiscussionを踏まえた過去の論文からの位置付けおよびimplicationsを加えて強く終えることを推奨しています(ここにimplicationsを書く場合は上記のDiscussionで述べすぎないようにしましょう)。一方でできるだけシンプルに述べる派の先生方もいるので、メンターとよく相談しましょう。
In this analysis of nationally-representative data of ED children, by using routinely-available data at the time of triage, we found that the application of machine learning approaches to ED triage improved the discriminative ability to predict clinical and disposition outcomes over the conventional triage approach. (Goto T et al. JAMA Netw Open 2019;2(1):e186937)
7. ChatGPTなどの利用
初学者にとってDiscussionはかなりの難敵なので、Connected PapersやChatGPTの助けがあるのは大きいでしょう。Discussionをどこまで重視するかはかなり研究者によりけりな印象を受けますが、ChatGPTなどで作られた「薄い」文章は読んでて結構分かります。中身があるようで無い、と言う感じでしょうか。
自分の研究がどんなパズルのピースになるかが明確でなく、研究の強みと弱みが不明瞭で、implicationも「臨床にとって大事である」のような当たり障りのない内容になっていることが多いです。でもここは経験も大事なところなので、自分なりに詰めつつ、「良いディスカッション」を実地で学んでいく必要があると思います。