書き始めの第一歩

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1. メッセージを明確にする

論文のメッセージはクリア、かつインパクトがあることが求められます。初学者に多いのはあれもこれもと詰め込みすぎて、最終的に何が言いたいのかが分かりにくくなることです。時には詰め込みすぎて論文としての整合性が取れていないというケースも目にします。

したがって、論文を書き出す前に論文の筋書きをしっかり持つことが大切です。できるだけ新しく、世界に通用する視点が望ましいです(正直これは研究立案段階なので、この時点でそう言われても困ると思いますが)。国内のみの視点では国際誌への投稿は難しいですが、日本国内への発信という点で意義があります。筆者は編集者に 「査読者は良いと言っているが、世界的なプラクティスと異なるから、私たちの雑誌では受理しない」と言われたこともあります。逆に日本ならではの強み用いているデータベースに特徴がある場合はそれを生かすことが大事です。自分の研究がいかに新規性があるかをよく考えましょう。

そして必ず「So what?」を大事にしましょう。『この論文を通して何を主張したいのか』、そして、『それが何に繋がるのか』を明確、かつシンプルに述べられるようにしないといけません。とにかくメインのメッセージは一つに絞ることが大事です。


2. ひとつのパラグラフに明確なメッセージ・ゴールを


論文を書く際には段落を区切って書いていきますが、その時に大事なのは「一つのパラグラフに一つの明確なメッセージ・ゴールがあること」です。詰め込みすぎてはいけません。また、各パラグラフに一つのキー・センテンスを意識的に挿入するように心掛けましょう。

例えばイントロダクションの最初の段落なら、なぜそのテーマが大事なのか?というメッセージを書きますよね。一つの段落が長すぎても短すぎてもダメですが、それ以上に大事なのはパラグラフが一つのまとまりとしてちゃんと意味を持っていることが極めて大事です!これを意識せずになんとなくで改行したり、だらだらと書いてしまうと読者は非常に読みにくいので気を付けましょう。

参考になるサイトとして、まずは日本語で説明してある石原尚先生のこちらの記事があります。
パラグラフライティングの作法 -書き手にもメリットのある文配置ルール-

それから下記のacademic writingの記事は非常に有用なので是非一読してください(ちなみに臨床研究者は他のコンテンツにも目を通すことをお勧めします)。


簡潔で分かりやすい英文を書くためのコツを整理した - Unboundedly
職場で開催されていた「英語が母国語の人たちを対象とした英作文のコース」で学んだことを引き続きまとめます。 前回は英語論文を書く上で、どのような戦略で原稿を書き進めればよいかについて整理しました。 具体的には次の3ステップの順に執筆することで...


3. Academic writingとChatGPT

Academic writingは単語のチョイス、表現、ストーリー、論理構成、プレゼンテーションなどを包括しているので、AIだから全てOKというわけではありませんが、それでもChatGPTの登場で圧倒的に楽になりました。日本人が一番ハードルに感じていたこの部分が解消されたのは大きいと思います。

ただ、AIが登場しても「メッセージは何か」「論理構成とストーリー」は元の文章に大きく左右されます。また、出力された文章が正しいか、あるいはそれでいいかどうかを判別できなければいけません。この辺りをどのように対応していくかは各セッションで紹介していきます。

Academic writingに関しては非常に奥が深いのですが、参考になる書籍をいくつか下記に示します(他にもあればご教授ください)。初学者になんでもかんでも求める必要はないと思っていますが、マサチューセッツ総合病院救急部のCarlos Camargo教授やメンターに指導を受けた際に、彼らは単語や文章表現のひとつひとつに細心の注意を払っていました。一方で別の実績ある先生に指導を受けたこともありますが、誰一人として表現に拘らない人はいませんでした。特に研究用語や単語を正確に用いることは厳しく指摘されました。用語の使い方が間違っている論文の内容が正しいとは思えないから、という論理です(正論だと思います)。この辺りはAIが登場しても基本的な疫学・生物統計学などの知識が問われるところだと思います。

Science Research Writing For Non-Native Speakers Of English (Second Edition)
Academic writingの本として最も有名な一冊です。そもそもが英語なのでキツく感じるかもしれませんが、Kindle版もあり、機械翻訳にかけながら読む事もできます。2020年に改訂されたベストセラーです。
Essentials of Writing Biomedical Research Papers
若干古いですが、第一章は特にお勧めです。
The Elements of Style, Fourth Edition (English Edition)
Kindleならなんと100円で購入できます。短いですが、文字通りのロングセラーです。
大学生のためのアカデミック英文ライティング: 検定試験対策から英文論文執筆まで
アカデミックライティングはひたすら難しいですが、何も準備せずに書くよりは日本語の本を一読してから書き始める方が良いと思います。

4. 論文の構成要素を知る

まず論文の全体の構成として、原著論文の場合、おおよそ以下のようになります。

1. Cover letter
2. Title page
3. Abstract
4. Background
5. Introduction 
6. Methods
7. Results
8. Discussion / Limitations
9. Conclusions
10. Acknowledgements
11. References
12. Figure Legends

論文はIMRAD形式なので「Introduction, Methods, Results, and Discussion」が本文になりますが、これらのメインパート以外にも論文は色々記載しなければならないところがあります。ただし形式(お作法)は決まっています ので、そのひな形を使えば大丈夫です。

Cover letter(添え状)
Editorへの手紙です。失礼が無いように、かつ「こんな論文だから是非とも読んで欲しい」ということを簡潔にアピールしましょう。Cover letterの内容だけでもrejectされてしまうぐらい大事なものなので確実に仕上げる必要があります。具体例は後述します。

Title page
文字通り論文のタイトルと筆者・論文の情報などを書きま す。雑誌によって書く内容は異なるので、投稿先の雑誌の instructions for authors/author guidelinesをよく読んでください(多くの原稿がここに不備があります)。一般的にはrunning head (短い論文タイトル)や利益相反(conflict of interest, COI)や研究費の有無(funding)、キーワード、ワードカウントなどがここに含まれます。時に内容の要約(summary of findings, bullet points)を求められることもあります。

Acknowledgement(謝辞)
著者にはならないけれど色々手助けしてくれた人などへのお礼の部分です。これも具体例は後述します。

Figure legends(図の説明文)
論文の図表には文字通り図(figure)と表(table)があります。TableはWord形式で投稿するのが通常です(ExcelもしくはRなどで作成してからWordにコピー&ペーストして整形します)。一方で図はJPEG・TIFF・PNGなどの画像ファイルである必要があります。そのため、図の説明は画像内に入れるのではなく、本文の最後にfigure legendsとして挿入する必要がありま す。


5. どこから書き出すか

実際に構成のイメージが完成し、おおよその書きたいことが決まったら、いつまでも英語から逃げずとりあえず書き始めましょう。方法はいくつかあります。例えば、既に文献検索は終わっているはずだからIntroductionから順番に書いていく人、論文の概略ができているはずだからAbstractを先に書く人、客観的なMethodsとResultsから書き上げる人など色々です。

これは人の性格にもよるので好きにすれば良いです。個人的には、初学者であればMethodsとResultsから書くのが取り掛かりやすいように思います。というのも、MethodsとResultsは客観的な部分であり、IntroductionやDiscussionのような論理構成がそこまで必要ないため比較的手がつけやすいからです。とにかく英語を怖がらずに書き出す事が先決です。

しかも既存のデータベースを用いた研究ではMethodsの部分はかなり流用することができます(だからと言って他の論文の丸々コピーは自己剽窃、self-plagiarismになるのでダメです)。また先行研究はIntroductionやDiscussionだけでなく、Methodsの部分でも非常に参考になります。

あるいは書き始めは割り切ってChatGPTに相談して書き出してみるのもいいでしょう。とにかく動き出すことが大事で、埋まってくるとモチベーションも上がります。

また過去の論文をコピペするなと言いたいのですが、そこはChatGPTやDeepLなどと組み合わせて上手に使い分けてください。ちなみに経験のあるメンターであれば、コピペ部分は結構な確率で分かりますし、ChatGPTぽい文章もなんとなくわかります

最初から文章書くのが苦手であれば、まずは論文に書く内容を簡単に箇条書きにしてみましょう。一緒に研究している人と全体の流れを共有するためにも、まずは日本語で各セクションの骨格となる文章を書いていきます。常に「メインメッセージは何か?」を忘れないでください。

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