臨床研究のテーマに困る理由とその対処法

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なぜ研究テーマに困るのか

研究テーマ決めに関しては、指導者からテーマをもらう時にはあまり困らない一方、自分で研究案を練るときに結構困ることがあります。一番大事なところであり、一番面白いところであり、一番難しいところでもあります。

研究室所属でテーマをもらう場合はあまり困らないかもしれません。最初はもらったテーマで自分の理解を深め、そこから新しいテーマに繋がって独り立ちするのが理想でしょうか。一方、臨床から大学院に所属するなどしてとりあえず研究しようという場合は結構苦戦するように思います。データベースを用いた臨床研究においては、用いるデータベースを前提とした切り口勝負のこともあるでしょう。

今は色々な研究の形があるので一概には言えませんが、筆者が相談に乗る場合、臨床研究においてテーマが決まらないパターンは下記のいずれかのことが多いです。

  1. 臨床疑問から、どう具体的にすればいいか分からない
  2. 過去に研究が行われていて新規性が無さそう
  3. 研究室などで使えるデータベースが決まっている
  4. 研究案を出したけど、指導者にダメ出しされた
  5. そもそもアイデアが全く思いつかない


1. 臨床疑問からどう具体的にすればいいか分からない

基本的には「何かを解き明かしたい」「何かが疑問である」という出発地点から始まります。例えば臨床である症例に遭遇して検査方針や治療方針に疑問があったとしましょう。例えば「この検査意味あるのかな?」とか「この治療どうなんだろう?」、あるいは「診断もっと簡単にできたらいいのに」などが挙げられると思います。

いずれにしても、まずはメンターを見つけようということに変わりはありません。一人でいくら考えても暗中模索になるからです。

臨床疑問(clinical question)を研究疑問(research question)に落とし込むには、自分の知りたいことを明確にし、記述研究・関連性の研究・因果推論・診断予測のどれに当てはまるか考えます。そこからPICO/PECOなどのフレームワークに落とし込むとわかりやすいかもしれません。

また、ChatGPT
・「こういう研究をしたいんだけどPICOのフレームワークに落とし込んで」
・「これは記述研究、因果推論、診断予測のどれですか?」
・「こういう研究をするにはまずどうすればいいですか?」
などを質問して壁打ちすると結構いい感じにまとめてくれるので、自分なりに整理するのに使えます。

目の前の患者からはじまる臨床研究: 症例報告からステップアップする思考術
文字通り、どうやって臨床疑問を研究疑問へと進化させていくか。症例報告のその先へ向かいましょう。
労力を無駄にしないための 臨床研究テーマの選び方: 論文執筆マニュアルを開く前に読みたい没ネタ回避術
「研究テーマの選び方」という大切な切り口で失敗談を元に「どうすれば良いテーマを選べるか」について書かれています。非常に読みやすい一冊です。
実例から学ぶ! 臨床研究は「できない」が「できる! 」に変わる本
「研究を実践した人の経験+メンターからの助言」という構成で、初学者が躓きやすいところをどう対応してきたか、その手がかりを教えてくれる本です。実践で困るところが実例を元に解説されています。

2. 過去に研究が行われていて新規性が無さそう

「臨床で疑問に思って研究しようと思ったけど、調べたら研究があった」場合に考えることは二つです。一つは単純な自分の知識不足、もう一つはエビデンスの不足です。ここの差分はUpToDateやガイドラインなどを読んで基本的な知識をつけてから、再度根拠となる原著論文を読んで臨床ベースに考える必要があります。

例えばガイドラインを読んでも十分な根拠がない場合、それはチャンスになります。そこで「なぜここはエビデンスがないのだろう」と考えてみてください。テーマとして曝露因子やアウトカムの評価が困難、時間がかかる、などいろいろな理由がありますが、例えば単施設でも症例を集めれば可能そうか、あるいは所属している研究室のデータで解析したらエビデンスが出せる可能性があるかを検討します。

エビデンスは「ある・ない」ではなくグラデーションです。論文はあくまでパズルのピースにしか過ぎず、一本論文があるからと言ってそのピースが完璧なエビデンスであることなんていうのはありません。また、医療は日進月歩ですから、当時は正しくても現在とは状況が違う、なんていうのは当たり前です。

「既に似たような研究があります」と言っても、そのエビデンスの強弱はさまざまで、こればかりは原著論文を吟味するしかありません。初学者にとっては辛い作業でしょうが、関連する論文をまずは5本読めば何かしら手掛かりが見えてくるでしょう。特にサンプルサイズ、施設因子、曝露とアウトカムの定義、一般化可能性、それから研究限界を中心に読んでみましょう。指導する側としても「とりあえずパッと思いついたのみで文献は全く調べていないアイデア」よりも、せめて10分で良いからGoogleやPubMed検索するなりしてもらってからの方が遥かに指導しやすいです。

似たような研究があるということは、それだけみんなが疑問に思っているということでもあります。その中のニッチでも良いので、add onできる部分を探しましょう。


3. 研究室などで使えるデータベースが決まっている

最近は俗にいうビッグデータやレジストリの利活用が盛んなので、それらを用いて「早く論文を書きたい」と思う人も多いでしょう。筆者は「データを前向きに集めるにしても、自分で解析して論文を書くプロセスを一回は経験しておいた方が効率が良い」と考えているので、最初の一本はそうなりがちです。

同じデータを用いてもインパクトファクターの高い雑誌にガンガン載せている人もいればそうでない人もいます。これはたくさん論文を書く中でセンスが磨かれているからです(稀に元々センスのある人もいますが…)。

まずはそのデータベースから出版された論文を眺めてみましょう。アイデア考えて、と言われても大抵はいきなり思いつくものではないですから、最初は過去の事例に倣った方がスムーズです。

多くの場合、同じデータベースから出る研究は似たような研究に分類されるはずです。その中からデータの特徴や、曝露・アウトカムの定義、研究限界が見えてきます。その上で自分の興味のあるテーマとの擦り合わせを行っていくことになります。先にデータを決めているなら、この擦り合わせをした方が早いと思います。

本当にやりたいテーマでデータが欲しい場合は、並行してカルテレビューや前向き研究などを検討すれば良いでしょう。


4. 研究案を出したけど、指導者にダメ出しされた

何度もダメ出しされると心が折れますよね笑。僕もそうだったのでよく分かります。指導者によりけりですが、理由は大体下記の二択(三択)です。

  1. 面白いけどフィージビリティがない
  2. 面白くない
  3. (面白くないしフィージビリティもない)

これは指導者と具体的に「なぜダメか?」を聞いて話を詰めた方がいいです。ここを嫌がる指導者はそういないはずですし、ダメな理由を教えられない・答えてくれない指導者はちょっとよくないかもしれません。指導者はアイデアを聞いた段階で「ああ、その研究ならあのデータですぐできるな」「これならそこまで負担なく集められそうだな」という判断ができます。経験豊富な指導者であればデザインから投稿先まである程度想像できるでしょう。

ここの部分が初学者からすると「なぜか分からないけどダメらしい。自分としては面白いと思うのになあ」となる理由です。本当に面白いと思うならちゃんと調べて自分で面白い部分を説明しないといけないですし、熱意があれば指導者も説得できるかもしれません。僕も指導者を説得して行った研究が「これは意外と面白い研究になったねえ」と言われたことがあり、やはりそういう時は嬉しいですよね。

もしダメ出しされても、その時のアイデアは心の中に留めておきましょう。数本書いてから見るとまた違って見えますし、実はダイヤの原石だったかもしれません。指導医は初学者の夢物語に自分のエフォートを大きく割く訳にはいきませんから、どうしても現実的な方向に走ります。なので多少つまらなくてもフィージビリティがある方を好むように思います。

あとはとにかく数多くアイデアを出すこと。下手な鉄砲数撃ちゃ当たると言いますが、アイデアを生む筋力?は、アイデアをもとに解析・論文化していく作業と別物です。使えば使うほど磨かれますし、使わないと錆びていきます。


5. そもそもアイデアが全く思いつかない

本当にひとつも思いつかないのでしょうか。

  • 実は面倒くさい
  • 面白いと思ったけど自信がない
  • 誰かがやっているような気がする
  • こんなアイデアでは恥ずかしい
  • ダメ出しされるのが嫌だ…

こんな気持ちはありませんか。とにかく恥ずかしからずに捻り出してブレストしてみて下さい。最近ならChatGPT相手に相談?してみるのも良いでしょう。上記の通り数を出すことで鍛えられますから、まずは勇気を持って出すことが大事です。

本当にアイデアが無いのなら日々の臨床を少し意識的に行ってみたり、最新の文献を読んでみたり、あるいは学会に参加してみてください。学会はアイデアの宝庫であり、刺激をたくさんもらえます(もちろんアイデアを勝手に盗用してはいけません!)。

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