共著者・チーム決め

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1. 著者順と業績(オーサーシップ)

論文を書くうえで最も大事なポイントの一つが著者順と業績、すなわちオーサーシップです

オーサーシップは研究が始まるとき(研究計画書を書くとき)、あるいは研究案を思いついて確定した段階で決めないといけません。なぜオーサーシップで揉めるかというと、論文に掲載される名前の順番=業績だからです。最も業績的価値の高いポジションは筆頭著者(ファーストオーサー)と最終著者(ラストオーサー)、それから日本国内においてはこれスポンディングオーサーです。

筆頭著者は「〇〇さんの論文」という、研究者として最も業績的価値の高いポジションであり、筆頭原著論文がなければ研究者として成立しません。そして最終著者とは、研究プロジェクトを組み、研究資金を獲得した人で、多くの場合は教授やprincipal investigator(PI)です。この二つは業績的な意味が全く違います。筆頭著者は個々の研究者としての能力を示す業績であり、最終著者はプロジェクトを立案し、資金を獲得し、チームとして遂行させる能力を示す業績です。

若手はまず筆頭著者で何本か論文を書くことを目指します。次に第二著者(セカンドオーサー)として研究指導や他者の研究に貢献します。研究は一人で行うものではないため、指導者としてどれだけ貢献したか?という点を見る人もいます。大学病院などの場合、第二著者としての業績も重視されることがあります。そして研究者として論文を出し、自分のプロジェクトを持つようになったら最終著者として活躍します。逆に言うと、第二著者や最終著者ばかりで筆頭著者の論文がほとんどない場合は、研究者として評価するのは難しいです。

ここまで踏まえると「論文に名前が掲載される」というのが大きな意味を持つことがわかると思います。実際に筆者も第二著者として論文に参画して貢献していたのに、最後になって「やっぱり変わってくれ」と言われたこともあります。

ちなみに第三著者くらいまでは貢献順ですが、それ以外はあまり順番に関係なくアルファベット順や、肩書き順になることが多い印象です。また著者順と業績の関係は他の分野では異なるので臨床医学研究の分野での話になります。

またコレスポンディングオーサー(corresponding author; 通称コレスポ)を決めないといけませんが、日本においては多くの場合、メンターが担当することが多いようです。コレスポンディングオーサーは筆頭著者と同等の業績とされることが多いのですが、国や分野によって扱いがかなり違うので一概にどうすべきとは言えません。メンターとよく相談してください。

最近はこういう業績を意識して、Co-1st authorやダブルコレスポンディングオーサーなどのオーサーシップを付与することがありますが、指導医と相談してください。


2. オーサーシップを決める

実際にオーサーシップを決める時に、こじんまりとしたグループや気心の知れたグループなら問題になりにくいかもしれません。一方で、二人以上教授が入る場合や多施設共同研究などではよく問題になります(筆頭著者の悩みの種でもあります)。逆に「お世話になった人、全員入れたい…」と思うかもしれませんが、そうはいきません。なぜなら「論文に名前が載る=名前が載った人の業績かつ、その人が論文の内容に責任を持つ」だからです。そのためオーサーシップにはルールがあります。

まずは国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)に準拠したauthorship規定として、以下 の1-3の全てを満たすものになります。

  1. 研究の構想と設計 or データの獲得 or データの解析に重要(substantial)な貢献
  2. 論文の執筆 or 重要な知的内容の改定
  3. 最終原稿に同意

つまりこの条件を満たさない限り共著者としては認められないということになります。ここでよく問題になるのがgift authorshipです。Gift authorshipの一例として、「施設、あるいは所属している部署の人の名前や直接関係してない施設長の名前を入れる」 というものがあります。そのような有形無形のプレッシャーがあるのは理解しますし、若い研究者が弱い立場であることも理解しています。しかし、直接大きな貢献をしていない人の名前を入れるのは、研究倫理に違反することです。実際に、最近ではオーサーシップが不適であったことが研究不正として認定され、明確に処罰されたケースもありました。

従って内容に責任を持たない人を「しがらみ」や「同僚だから」という理由だけで著者に加えてはいけません。Authorship の規定には満たないが研究に協力してくれた人は謝辞(Acknowledgement)にその旨を記載しましょう。特に日本では所属長が最終著者として記載されることが多いですが、教授や部長が部下の研究のインフラの整備をするのは当たり前の仕事です。したがって、教授や施設長であっても、ただそれだけでは名前は入らず、データ収集、研究デザインや統計の相談、内容の拡充・校正、研究費の取得など論文作成に多大な貢献をして初めて名前が入ります。つまり、ただデータの収集に貢献しただけでは論文の共著者にはなり得ません

多施設共同研究などで同じアイデアが出た場合はその研究のPIが決めることになります。研究アイデアがあってもデータがないとどうにもならないじゃないか、という議論が時に起こりますが、筆頭著者の優先権があるのはアイデアを出してその研究を立案した人です。多施設研究においてデータ収集は大事なステップですが、それだけを理由に筆頭や最終著者になることはないと思います。

色々書きましたが、実際のところこのマニュアルを読む初学者にとってはこれらの事項は自分一人では如何ともし難いところでしょう。立場上やむなし、である場合は信頼できるメンターと相談してください。そして自分が指導に回った場合にはこの時の気持ちを忘れないようにしましょう。


3. 疫学者・生物統計学者をメンバーに加える

近年臨床研究で求められるレベルが飛躍的に上がってきており、臨床医が「統計ソフトを使って解析してみた」では通用しなくなっています(そもそもこのような研究は避けるべきですが)。実際に査読の段階で「統計学者による見直しが必要」と要求されることもあります。そこで疫学者・統計学者を研究立案段階からチームに入れる事が大事になっています。

ただ、研究のことが何もわかっていない段階で相談すると「研究のことはわからないないけど、臨床のことはわかる」初学者と、「臨床は分からないけど研究のことはわかる」専門家の間を繋ぐ人が存在せず、結局うまくいかないことがあります。したがって指揮者となる、最初は経験豊富なメンターにマンツーマンで教えてもらい、ある程度経験を積んでから自分で研究を行う時に自分から声をかけるのが良いでしょう。

もちろん指導経験豊富な疫学統計学者であれば初学者の指導をうまくサポートしてくれるかもしれませんが、そこまでコミットしてくれる人を探すのはかなり大変な印象です。大学病院であれば臨床研究センターなどに担当者がいますから、一声かけてみましょう。近年ではSNSで知り合った先生と一緒に研究が進むこともあります。


4. 船頭多くして船山に上る

最初に相談していたメンターとうまくいかない、あるいは意見を聞きたくて勝手に他の人に相談するのは絶対やめましょう。救急外来の臨床研修でもダブルコンサルトはやめろと言われた人もいると思いますが、同じです。

これは混乱の元になって、最終的に論文が形にならないことの方が多いです。最初に相談に乗っていたメンターからすると自分に断りなく相談されると面白くはないですし、どちらの意見を重視するかで間に挟まれることになります。同じ研究目的だから同じ方向を向くかというと案外そうではなく、結構方針が割れてしまいます。

従って、基本は筆頭著者と一人のメンターが全責任と方針決定権を持つというのが理想的だと思います。もちろん直属のメンターの許可を得て、最終決定権を明確にした上で相談するのはOKです。急造でチームを組むとわかるのですが、「あの人がこう言ってるなら、任せようかなあ」などお互い遠慮して話が進まないこともよくあります。


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