研究環境を整える

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1. 研究に必要なパソコンを用意する

臨床研究に用いるデータの多くは、各研究室で厳重に管理されているため、個人のパソコンに落として研究することは難しいかもしれません。もし個人のパソコンでの解析が可能であれば研究はしやすいのですが、患者さんのデータは重要な個人情報であり、データの紛失や流出など重大なインシデントにつながる可能性があるということは十分に理解しておきましょう。場合によっては本当にクビが飛びます。

ビッグデータ時代でもあり、将来的には各施設のサーバーもしくはAmazon Web Serviceなどのクラウド上で管理し、統計解析ソフトなどもその上で動かすのが当たり前になると思います。ただ現状は、まだまだ個人のパソコンで解析しているケースが多いのではないかと推察します。

研究に用いるパソコンはWindowsでもMacでも良いですが、なんとなくMacユーザーが多い印象はあります。ただMacだと一部便利なソフトが使えなかったりするのと、近年ではビッグデータを用いることもあるので、あまりに古いパソコンはお勧めしません。可能なら5年以内のものが好ましいです。解析に時間がかかるのはストレスに繋がりますし、近年の新しいアプリケーションなどが動かないと研究環境についていけません。もし医局などにある臨床研究専用のパソコンが古い場合は、交渉するなりしてできるだけ新しいものにしましょう。

ノートパソコンやiPad+Magic Keyboardなどは日常利用には便利ですが、大学院に入ってしっかり研究を行うなら、デスクトップ+メモリ増設+デュアルモニターをお勧めします。画面がクリアで見やすく、論文執筆が捗ります。また姿勢がよくなり、肩や腰に負担をかけなくてすみます。あと、良い椅子高さのあった机も大事です。最近のPCは相当なデータを扱わない限りオーバースペックな部分はあるかもしれません。ただ、数百万レコードを超える、あるいはオミックスなどでは相当な性能が必要なこともあります。研究費で購入できると良いですね。

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2. 研究に必要・便利なアプリやツールを導入する

臨床研究を行うにあたり必要、あるいは便利なソフト・ツールとして下記があります。これらもChatGPTなどの登場で大きく変わってしまいました。生成系AIの登場により、臨床研究を取り巻く環境も今後目まぐるしく変わっていくと思うのですが、無理して最前線に立ち続ける必要はありません。大事なのはガジェットに詳しいことではなくて、研究のアイデアを練り、研究費を取得し、仲間を集め、データを収集し、論文を書いて次に繋げるという一連の流れだからです。生成系AIはこれらをサポートしてくれるに過ぎません。

またこれらのうち、執筆ソフト、文献管理ソフト、統計解析ソフト、図表描画ソフトは必須です。有料サービスも含めているので注意してください。

  1. 論文執筆ソフト (Word、Google Doc、LaTex):使いにくいようで結局はWordを使っています。
  2. 文献管理ソフト (EndNotePaperpileZoteroMendeley):個人的にはPaperpileが使いやすいです。
  3. 統計解析ソフト (R、Python、STATA、JMP、SAS、SPSS):臨床研究だとR、機械学習を使う人はPythonです。LLMのおかげでコーディングは一気に楽になったので、基本的にはR一択かなと思います。
  4. 図表描画ソフト (Powerpoint、Excel、Illustrator、統計ソフト):図表はすべてRで作れるので、Rで作るのをお勧めします。最後の調整はパワポやイラストレーターなどで修正するのが楽でしょうか。
  5. タスク管理ツール(Notion):NotionはAIも導入されて比較的使いやすいですが、好みが分かれるところです。
  6. 連絡用ツール  (Slack、Teams):施設内で相談を。
  7. 翻訳・英文チェック   (ChatGPT/Claude3/GeminiなどのLLM、DeepL):LLMとDeepLは異なるので、LLMで英文チェック→DeepLで和訳などのように文章を繰り返し

ここで大事なのはできるだけ周囲の環境と揃えるということです。例えばみんながRを使っている中で、自分だけがSTATAだと困った時に相談しづらく、研究の進捗に影響を及ぼしてしまいます。他にもWordでなくR markdownで書いたけど共著者が慣れないケースや、画像の共有をKeynoteでしようと思ったらWindowsだった…などたくさんあります。またパソコンが得意な人とそうではない人で扱いやすさが異なるので、人に相談するときは自分とパソコンなどのリテラシーが似ている人に聞きましょう。

Google Docは便利で共同作業ができるのですが、世代的に中堅以降の先生はあまり慣れていないように思います。また変更履歴や修正点などの把握がしづらく、「指導」という視点からは若干不便な気はします(単なる世代の問題かもしれませんが)。あと、Google DocからWORD形式でダウンロードした際に形式が崩れたりpaperpileで引用していた部分がおかしくなるなどの問題もあるので、使い方には注意しましょう。一方で共同執筆の場合は同時に各自がまたコミュニケーションツールとしてはSlackが主流ですが、流れて見失いがちになるので気を付けましょう。

最後に、環境構築に無駄に力を入れたり、とにかく新しいソフトを導入したがる人がいますが、大事なのは論文を書くことと研究の中身そのものです。これらは単なるツールなのでガジェットオタクにならないようにしましょう。ChatGPTなどのツールも同じです。研究して論文が書ける人はそういったツールを使いこなすことができますが、基礎となるスキルがないのに用いても振り回されがちになってしまいます。


3. 研究に必要な時間を作り出す

論文作成は締め切りがないため、タイムマネジメントが非常に困難です。しっかりと期限を決める事、そして、まずは10分~15分でもいいから毎日論文に携わることを目標にしましょう。学会発表などを目安にしても良いと思います。これはどの本を読んでも書いてあるのですが、実行に移すのは至難の業です笑。

できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか 
有名な本で、どうやったら論文の生産性を上げることができるのか?のコツが書かれています。筆者のメンターからも一読しておいた方が良いと勧められた一冊です。
なぜあなたは論文が書けないのか? 
上記の本と割と似たような感じでまとめ買いされている印象です。どちらの本も結構心に刺さる部分があってモチベーションが上がるのですが、実行することの難しさを実感します。

臨床で働いている人が忙しいのはみんな承知ですし、家庭のある方・ケアをしている方であれば尚更時間がないと思います。その中でいかに論文執筆のための時間を作り出せるかが大事で、無理な時はスパッと執筆を諦めて自分の優先すべきことに時間を割くのも大事だと思います。逆にここのメリハリをつけないと、指導者としては『特に休むという連絡もないまま時間ばかり過ぎるけどどうしたものやら』となってしまいます。

  1. いつまでに書き終えるか明確にし、メンターに伝える
  2. 毎日解析もしくは論文執筆に15分で良いから携わる
  3. 研究日や週末にまとめて行おうとしない
  4. 書き始めたら間をおかない
  5. 60%の仕上がりを目指して「出来てきている」雰囲気を作る
  6. 執筆中は一切SNS、スマートフォンなどを見ない

大学病院などでは研究日として週半日〜1日程度の時間が与えられると思いますが、初学者がこの時間だけで研究するのは大変です。とりあえず「週末にまとめてやろう」と思っても、人間はそんなにまとめて集中できません。漫画やYoutube、SNSなどに手を出してしまうのがオチなので気を付けましょう。可能であれば大学院に所属するなどして時間を確保したいところです。

また論文を書くということは想像以上に時間がかかります。 英語だから難しいと思ってしまいがちですが、日本語でしっかりと自分が行いたい研究の筋書きを持っていたら、そこまで苦労しません。逆に英語が得意でもこれらの点がしっかりとしていないと苦労します。

そして書き始めたら、絶対に間をおかないで進めるべきです。一度放置してしまうと1~2ヶ月があっという間に過ぎて行きます。そうすると次取りかかったときに、自分が何を解析したかったのか、何を書きたかったのかがわからなくなり、やり直しになります。自分の訴えたいことが明確なうちに書き上げてしまいましょう。

個人的にはできるだけ一週間以内に大まかなドラフトを書き上げるようにしています。英語の文法や細かいところは気にせず、過去の論文で用いた文章やDeepLを用いて勢いで書きます。全体が見えてくると進みやすくなるので、まずは60%の完成を目指して書くといいと思います。

ちなみに論文執筆中はスマホは別の部屋において、メール・LINE・SNSは一切開かないという制約を自分に課すのが良いです。また「論文を書く時間」はカレンダーをブロックして他の予定を入れないようにしましょう。これを一ヶ月やるだけでかなりの進捗があります。研究の進捗管理は上記のnotionなどで行うのがおすすめです。まあ、これができる人はそもそも苦労しないかもしれませんが…


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