1. Letterとは
筆者は研修医の時に若手救急医の団体であるEmergency Medicine Alliance (EMA)のメンバーに誘われてEMA文献班(当時はジャーナルクラブ班)に参加しました。EMAに所属している方はご存知かと思いますが、文献班はメーリングリストで定期的に文献紹介を行なっています。
文献班の中では時折論文の解釈に関しての議論が上がりますが、その中で重要な点があればletterにするというのを推奨しています。Letterは論文著者・編集者との公式なやりとりであり、論文を読んで疑問に思った点や解釈の違い、あるいは研究手法の改善点などを議論する場です。
Letterは正式にはletter to the editor/correspondenceと呼ばれる雑誌の読者投稿欄で、PubMedで検索した時にabstractがありません。読者とのコミュニケーションスペースです。PubMedで”Comment”と書いてあり、どの論文へのコメントは”Comment on”となっています。下記の図の”Comment in”は読者からの質問レターに対する原著論文の著者の公式な返事です。
より具体的には下記のようなケースです。
- 最近発表された論文の問題点について議論する場合(有効性に影響を与える可能性のある方法論上の懸念点、研究実施上の懸念点、研究の解釈や結論に対する意見の相違など)
- 論文のあらゆる側面について説明を求める場合
- 最近発表された論文や話題のトピックについて、専門家の意見や客観的なデータを用いて既存の知識を深めるため
- 専門的な視点を共有するため
またLetterは必ずしも掲載された論文の内容に関するものでなくてもよく、時事ネタや速報的な視点で書かれることもあります。他にもBMJはrapid responseというオンライン上でのletter systemを採用していますがPubMedには掲載されません。
ちなみに一言でletterと言ってもresearch letterと既存の論文に対するコメントとしてのletter(correspondence)は全く違います。Research letterは研究報告であり、査読を受けてoriginal articleに準ずるものとして出版されます。
2. Letterを書くことのメリット
Letterを書くことのメリットはいくつかありますが、主なものとして下記が挙げられます。
- 数百字程度なので負担が少ない
- 論理だった書き方のトレーニングになる
- 出版された研究に異なる着眼点を入れることで議論が活性化し、scienceに貢献できる
- PubMedに名前が掲載される
レターは論文を書いたことのない人が最初のハードルとして取り組むには負担も少なく、教育的効果も大きいと思います。実際に書いてみれば分かりますが、臨床研究と違ってそこまで難しいものではありません。数日で終わるのでやってみる気があるかどうかの違いしか差がないと思います(多分笑)。
また、限られたスペースで自分の言いたいことを論理立てて簡潔に伝えるというのは中々テクニックが必要であり、書いてみる中で学ぶことも多いです。
3. Letterは業績なのか
LetterはPubMedに掲載されるため、ついつい業績としてアピールしがちです。Letterはあくまで既存の論文に対するコメントであり、査読を受けた研究ではありません。例えるならジャンプの読者投稿欄に掲載された読者投稿を「私はジャンプで漫画を連載しました」と同等の事として書いているようなものだからです。業績欄を書く時には下記のように分けるとよいです。
- 原著論文(筆頭)
- 原著論文(共著)
- 原著論文(総説)
- その他(レター、collaborator)
LancetやNEJMに原著論文を出版する事とletterを書いて出すことの重みは比べようがありません。多分日本でNEJMやLancetに論文を出したと言っている人のほとんどはletterかimage/case、あっても共著でしょう。NEJMに筆頭著者として出している人は極めで少ないです(そんなNEJMに数本出してしまうmonsterもいますが…)。
Letterと自分の原著論文を一緒にするということは研究者としての矜恃の問題で、自分が一生懸命生み出した原著論文の価値より名前だけ載せたLancetやNEJMという文字の方が大事ということになってしまいます。とはいえ嬉しいのも事実。次は原著論文を掲載することを目指せばいいと思います。
4. 研究者はあまりletterを書かない?
筆者が所属していた研究室ではほとんどletterを書きませんでした。ボスが書いているのも見た事がありません。大事なのは新たな発見であり、自分の研究を突き進めるために時間が足りない、という感じでした。自分の興味がある分野で納得のいかない研究が出たらletterを書くかもしれませんが、そもそも全ての研究は不完全ですし、その時間があれば自分の研究をしていたいと思うものなのかもしれません。
一方で臨床医は研究結果を解釈し、臨床に応用することを求められます。従って原著論文を批判的に吟味する必要があるletterや二次的な解析を行うsystematic review/meta-analysisやletterは大きな意味を持ってきます。できる限り批判的吟味を行うことでサイエンスが活性化し、より患者さんのアウトカム改善できる可能性があるからです。また正しい意味での批判的吟味を行うことはアカデミックスキルを鍛える事にもなります。
個人的にはレターを書くために論文を批判的に読むというよりも論文を読んで疑問に思うことがあれば書けば良い、くらいのスタンスですが、そうすると中々letterを書く経験ができません。無理して書く必要はないのですが、ジャーナルクラブなどで自分が読んだ論文に対して意見があれば書いてみるということを挑戦する機会は与えたいなと思う気持ちもあり、その辺の兼ね合いは中々難しいなと思います。