1. メンターは忙しい
基本的に臨床研究を指導できる人材は不足しています。従って、指導可能な臨床研究指導者はどの施設でも貴重なため、その人に依頼が集中します。またそのような人材は外部からの依頼もあったりするため、多くのメンターは「あなたの研究だけを見ているわけではない」ということを念頭におく必要があります。特に一線の臨床医であれば臨床・運営・家庭の合間に事実上ボランティアとして指導している事がほとんどです。研究に限った話ではないですが、指導医が有名であるが故に忙しすぎて構ってもらえないというのはよくある話です。
指導者が論文の細部にまで修正を入れようと思うとおそらく5-10人程度が限界で、それ以上は把握しきれない、あるいは直接の指導が行き渡らなくなるように思います(多数の指導を行なっている凄い教授もいますが…)。従っていくら有名な研究室でもその指導者から直接教わる機会がなく、しかも屋根瓦でもないとなると最悪放置される可能性すらあります。
一方、臨床研究のメンターとしては正直「できれば優秀で将来的にwin-winの関係になれる人を優先的に育てたいし、将来的に研究しない人に自分の有限な時間を割きたくない」という本音もあると思います。優秀な教え子がもし将来的に自分のチームやレジストリを持ち、コラボレーションできたら言う事なしです。でもそういう人は少なく、多くの人は臨床に戻ると論文を書かなくなります(あるいは時間的制限で書けなくなる)。
2. メンターの気質と相性
当然ながらメンターの性格やリーダーシップ、相性も大事です。むしろこちらの方が大事かもしれません。優秀な研究者は自分にも人にも厳しい事が多く、あまりに厳しすぎる人の場合、下がついてこれずお互い不幸な結果に終わることもあります。今までそういう事例をいくつか見てきた事があるだけに、臨床研究の指導を受ける場合には事前に面接を受ける事や相談する事は大事だと思います。そしてリサーチカンファなどで定期的にフォローアップしてくれる仕組みがあるところはとても良いと思います。というのも余程モチベーションが高くなければ大抵の人は途中で執筆が止まって数週間はあっという間に経過していることの方が多いからです。
経験上、臨床研究の指導者は大きく二つのタイプに分かれます。
- どんな論文であってもできるだけ手を抜かずチェックを行い、最終原稿を確認する人
- コメントをいくつか入れるのみの人(ただの共著者は除きます。あくまで直属のメンターの話です)
僕自身は初学者が研究するなら1の指導者をお勧めします。本当に研究に対して真摯な人はどのような論文であれ細部に非常に拘ります。論文のロジック、単語や表現の選び方などに関して妥協しません。そういう人は往々にして厳しいのですが、自分の名前が入っている以上、プライドを持って論文がpublishされるまで面倒を見てくれます。
一方で「うん、これでいいんじゃない?」と本文にコメントをいくつか入れておしまい、というメンターは最後まで面倒見てくれるかどうか不明です(信頼があってそう言っている場合は別です)。以前、共著で入った論文のメンターの先生がこんな感じで、筆頭著者の先生から「これでボスはOKって言ってるけど大丈夫だと思う?」と何度も相談され、正直に「多分良くないと思う」と伝えて、そこから二人で論文を改善してようやく出版した事がありました。
特に高いポジションになって忙しくなってくると一つの論文をチェックするのに割ける時間は減りますし、初学者の論文修正ほど時間がかかるものはありません。また初学者に大きなエフォートを割いてくれる人も珍しいです。要は「あなたの研究に責任を持ってくれているかどうか?」です。逆にもう論文をバリバリ書ける人なら適当なメンターの方が気楽かもしれませんが…。
3. メンターとのやり取り
メンターの忙しさと性格によるとしか言えませんが、できれば週に一回は定期的なmeetingを持つようにしましょう。最低でも月に一回は必須です。研究が進んでいない時には非常に負担になるのですが、そのような時こそ助けてくれるのがメンターです。メンターも自分のメンティー(指導を受ける側)の研究が進んでいないのは精神的な負担であり、気にしているものです。ちなみにそのあたりが曖昧な場合は自分から積極的に日程調整を行ってください。
メンターとのミーティングは叱責される場所ではなく、なぜ進まないのかを明らかにし、問題点を擦り合わせて解決する場です。まあそう言っても進まないメンティーにイライラすることもあれば、逆に放置するメンターにモヤモヤすることもあるでしょう笑。でもそれをちゃんと話し合うのが大事ではないかなと。この時、文章よりも絶対に会った方が良いと思います。
またどの程度進んだら原稿を見せるか?という点に関しては意見が様々ですが、筆者は留学時に「自分の120%を見せないと、多忙なボスからしたら記憶に残らないし、手のかかるやつだと思われて仕事を任せてもらえないよ」と大学院の先輩に言われた記憶があります。確かに初学者の原稿はほとんど手直しが必要なため、海外の競争の激しい研究室であればその通りかと思いますが、正直初学者メンティーとしては精神的にこたえます。
個人的には
①研究計画書を書いた段階
②統計解析結果が出た段階
③Methods/Resultsが仕上がった段階
④最終原稿の4段階
が大きなポイントかなと思います。
下記に当時を思い出しながらメンティーとメンターの思考を挙げてみます。
筆者がメンティーの時の思考:『経験ないからこれでいいのか分からないし、本も読んだけどどう書けばいいのか分からない。締め切りも明後日になってしまった…。とりあえず怒られそうな気もするけど、これで送って良さそうなら次に進めよう(ボスがなんとかしてくれる気もするし…)』
筆者がメンターの時の思考:『なぜベストを尽くさないのか。お作法もなってないから読みにくいし、コピペが残ってる。途中からは全然書けてないし丸投げもいいところだ。これに手を入れてもまた内容がコロコロ変わって時間の無駄になりそうだ。しかも締め切り間際にこの原稿を直せとか時間に対する配慮がなさすぎる。』
上記の例は極端かもしれませんが、身勝手なものでどちらも思った事があります笑。初学者が「これでいいか見てください」と言って持ってくるのは良いですが、できれば対面で時間を取るようにしましょう。筆者が指導していて気をつけて欲しい点を下記に挙げます(これは個人的嗜好です)。
- 論文を書く時のお作法はしっかりと抑え、ChatGPTなどのサービスを使って最低限の校正を行ってから見せる
- 締め切り間際に送りつけない(最低一週間前)
- 明らかなコピペを残さない(全く関係ない文章、いきなり変わるフォントなど)
- 細かい修正を何度も繰り返して送付しない(30%で相談、35%で相談…となると指導する側も大変です)
- 聞きたい事が明確なピンポイントの相談は歓迎な一方、「これどうですか」とバサッと投げられるのは何を見て欲しいか分からないのでひたすら大変
- 自分の研究であるという自覚を持つ
率直に言うと、頑張って時間を割いた原稿か、それともとりあえずで仕上げた原稿かは読めば分かります。
4. WordやGoogle Docは変更履歴を残す
論文をWordで書く場合、変更履歴を使う必要があります。
やり取りのイメージとしては下記に示すとおりです。
- 原稿を書いてメンターに送る(ファイル名に関してはこちらを参照のこと)
- メンターが変更履歴・コメントとともに修正を加える
- 修正点を把握したら、「変更履歴をオンにして」修正を行う。この時、あまりに修正ばかりで分かりにくいなら一度メンターが修正した部分を「承諾(上図の一番右のアイコン)」してから変更履歴とともに修正を行う
- 対処したコメントは返事をするか適宜削除する(重要なコメントは残しておいて返事を入れた方がわかりやすいことも)
なぜこれが必要かというと、修正には一般的に時間がかかるのですが、メンターは一週間も経つと「あれ、この前どこをどう修正したかな…」ということを忘れてしまう上に、どの部分が修正されたかが分からないので結局読み直しになります。また、メンティーが修正した場所がわからないというのは結構なストレスなので、これを避けるために、修正の場合は必ず変更履歴を残すようにしましょう。また、解決済みのコメントは削除するか、右クリックで「コメントの解決」を行うなど、コメントに対して何らかの対処を行ったことを明確にしましょう。