1. 自分の研究は自分が責任を持つ
研究は一人で行うものではありません。どのようなチームを作るかで良いエビデンスを出すか、それとも論文を一本も出せずに終わるかが決まります。今まで色々なチームに参画してきましたが、うまくサイクルが回って長年続いているものもあれば、最初は勢いがあったけどいつの間にか尻窄みになって消えたプロジェクトもあります。
プロジェクトにおいて大事なのは「自分がリーダーであり、最後までやり遂げる」という強い意志と熱意です。プロジェクト発案者が言い出したけど動かない、忙しすぎて手が回らないのがプロジェクトが失敗する原因第一位ではないかと思います(筆者もこの点に関しては反省すべきことが多々あります)。自分一人でも最後までやり抜くことが大事で、それをやり抜いてこそ、信頼を勝ち得て次の研究に繋げることができます。ここでプロジェクトを立ち消えにすると、再度一緒に研究しようと言っても次は首を縦に振ってくれないでしょう。
これはプロジェクトという大きな話ではなくても、論文を一本仕上げる事に関しても同じです。指導する側としても、積極的にボールを返してくれる人とそうでない人とでは教える側のモチベーションは変わります。指導者が教えてくれない、時間を割いてくれないと思う前に、「自分の研究である」という意識を持って、自ら行動して進めていくことが大事です。これだけ聞くと当たり前だと思うかもしれませんが、実際にその意識を持って行動するのはかなり難しいです。
2. ファイル名はルールを決めて統一する
自分が論文を書き始めた時には何となくWord(あるいはTex)に「manuscript」や「本文」といったファイル名をつけがちです。最近はGoogleドキュメントを用いた共同編集が盛んですが、それでもまだまだWordファイルをメール・Slackに添付して指導者・共著者に回覧するというのが主流ではないかと思います。やり取りの方法はいくつかありますが、
・メールに添付してやり取りをする
・SlackやTeamsで共有・コミュニケーションする
・添付ではなくGoogle Driveなどで共有する
などが主なやり取りの方法でしょう。どれでもやりやすい方法でいいです。Google Driveで整理・共有していくのがスムーズかなとは思いますが、メールの方が流れが整理されていいと好む人もいます。
この時、書いている自分は「manuscript」などでも理解できるのですが、送られてきた側はそうはいきません。例えばメンターが同時に10人と研究していた場合、送られてきたファイル名「manuscript」が大量にフォルダに存在することになります。そうなると過去のものを参照することが難しくなってしまいます。もちろん整理整頓している指導者もいるかもしれませんが、それらの名前を一々変更させるのは指導者や共著者に余計な労力を強いることになります(指導者からするとこの辺が整理できていると「おっ」と思います)。
Google DocでもWordでも、少なくとも「誰の論文で、どのデータで、何がテーマで、いつ更新された、何のファイルか」がわかるようにしましょう。好みがありますが日本語はできるだけ避けて、文字と文字を繋ぐ場合はアンダーバーを用いると丁寧かもしれません。
[NAME]_[DATA]_[PROJECT]_[DATE]_[TYPE]
一例として、Yamada_JEAN5_successrate_20210601_msのような感じでしょうか。Googleドキュメントであれば日付は不要です。僕はファイルタイプの略語として下記をよく用います。これにリビジョンならr1、r2…をつけています。
Manuscript:ms
Table: tb
Figure: fg
Reference: ref
Supplemental: spl
Cover letter: cl
Title page: title
Response letter: res
筆者はメールやSlackなどで添削したものを返信するときはファイル名の最後に「_TG」と自分のイニシャルをつけています(例:Yamada_JEAN5_successrate_20210601_ms_TG)。そして次に送るときはこの部分を削除して、日付を変えた新たなファイルとして送ってもらうようにしています(複数回のやり取りで「_TG_KH_TGver2」のようになることを避けるため)
ちなみにGitHubやRで文章を書いてしまうという人もいますが、今の指導者の多くはこれらに対応できないのでWordかGoogle Docで執筆するのが無難だと思います。自分の利便性も大事ですが、「指導医はold fashionだ」などとは思わず、共著者との共同作業ということを忘れないようにしましょう。
3. 共著者とのやり取りにおける注意点
共著者にコメントをもらうために原稿を送るときのポイントは
- メールやSlackで内容を要約する(数行以内)
- 何をして欲しいかを明確にする
- 期限となる日時を明記する
- 本文と図表は別ファイルで送り、図表はWordに貼り付ける。あるいは本文内の対応する場所に貼っておく。
(データセットそのものやExcel、PPTを送らない) - ファイルが3つ以上の場合はzipファイルに圧縮するか、Google Drive/Dropboxで共有する
- データを共有する場合、名前やidなどの個人情報が含まれた状態で共有しない!
期限は大体10日〜14日くらいが妥当でしょうか。これ以上何の連絡もなく待たされる場合は良くないです。また指導医にもよりますが、数日前にリマインドし、当日になっても来なければ催促のメールを送ってください。期限を過ぎても連絡がない場合は、経験上、忘れていることの方が多いです。こちらの「大学院生への9つのコラム」でも”指導教員はあなたの研究を覚えていない“と書いてありますが、その意識を念頭に置いておいた方が良いでしょう。一例として下記になります。
共著者先生
「COVID-19患者における気道管理の実態に関する研究」の論文を書き上げました。
本研究ではJEAN-5のデータを用いて救急外来において、COVID-19患者にどのような気道管理が行われたかを記述しています。その結果、***という結果が得られました。
お忙しい中恐縮ですが*月*日(*曜日)の**時を目処に内容をご確認いただけますでしょうか。また、添付のCOIフォームにご記入をお願いします。
よろしくお願いします。
研究太郎
リマインダの例は下記です。この時、二週間以上経っているならもう一度原稿を添付しても良いでしょう(探すのが面倒なため)。リマインダに関してはメンターとの関係性によるので自分の判断で検討してください。
共著者先生
お忙しい中何度もすみません。リマインダです。
*月*日(*曜日)に送付させていただいた下記原稿ですが、よろしくお願いします。
>お忙しい中恐縮ですが*月*日(*曜日)の**時を目処に内容をご確認いただけますでしょうか。また、添付のCOIフォームにご記入をお願いします。
研究太郎
メンター・共著者とのやり取りで絶対に避けるべきことは「締め切り間際に一方的に送りつける」です。これは自分の時間の事しか考えておらず、相手の時間を全く尊重していません。例えば初めて書いた論文を「24時間以内に添削お願いします」と言われたらどうでしょうか?初心者の論文は修正に非常に時間がかかります。当然その時、論文を優先すると他の仕事を中断せざるを得ないのです。これが繰り返されるとメンターは指導意欲を失いかねないので気をつけましょう。
また個人的な好みではありますが、図表をExcelやPPTで送られると、開くのに手間なのとコメントの反映が難しいです。メンターが修正してもどこをどう修正したのか分かりにくいので(変更履歴が残らない)、論文投稿を意識して図表もWordに貼り付けた状態で送ってもらう方が個人的には修正しやすいです。
それから最初に共著者に回覧するときに、合わせてICMJEのCOI disclosure formを送っておくと手間が省けるのでおすすめします。このフォームはPDF版とWord版がありますが、PDF版はMacのPreviewではうまく開けず、Adobe Acrobat Reader(無料)が必要になります。
4. 共著者のコメントをどこまで反映させるか
共著者のコメントをどこまで反映させるかは非常に難しい問題です。筆者の考えは「筆頭著者とその直属のメンターが全てを決定する」です。
つまり共著者の意見であっても必ずしも全てを反映させる必要はありません(そもそも全部のコメントに対応できないことが多いです)。共著者に回覧して全ての意見が出揃ったら、まずはメンターと相談して対応可能なところや対応しなくてもいいところを明確にして修正しましょう。その上で、対応できた部分と対応できなかった部分に関して簡単な説明をWordのコメントに残しておくのが良いと思います。またWordの変更履歴機能を用いて、修正箇所が分かるようにしてください。
この時あまりに共著者の意向を無視すると、軽んじられているように思われたり、経験豊富な共著者ならではのコメントを見逃してしまう可能性があります。これを防ぐためには直接話をしたり、zoomなどで聞いてみるのがお互いの信頼関係を築く上でも良い方法かと思います(実際には腰が重いのですが…)。
修正が終わったら最終稿を再度回覧しましょう。この時も初回回覧と同様に期限を決めますが、ある程度信頼関係があるなら「特にご意見がなければ返信は不要です」としておくのも一つの手です。ここまでに全く返事がない場合、提出後に問題になるといけないので個別にメールでの確認をしておきましょう。