押さえるべきお作法

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1. 論文のお作法は必ず押さえる

論文執筆においてお作法は非常に大事です。なぜ大事かというと、お作法がなっていない論文が査読に回ってくると「ああ、ちゃんとした指導を受けていないんだな。論文の内容も適当そうだな」と思われてしまい、いい事はありません。実際にお作法のなっていない論文が良い論文だった事はまずないです。

お作法に自信がなければ下記のテンプレートが役に立つと思いますし、どこに何を書くかはEQUATOR Networkのガイドラインに従いましょう。

お作法を守ることは、指導者・共著者の負担を減らすという点でも非常に重要です。指導者・共著者というのは「てにおは」や誤字脱字、文法を修正する存在ではなく、論文の構成やロジックを評価し、世の中に出すために指導しています。フォントがおかしい、明らかなコピペがある、図表の書き方がなっていない…これらのことは指導者や共著者に言われなくても修正できます。必ず自分でできるところまではやりましょう。

面倒と感じる部分もありますが、最初に形を学ぶのは非常に大切です。野球選手が正しいスイングや投球フォームを学ぶのと同じです。

ちなみに書き上げたら一度声に出して読んでみる事をオススメします。声に出すと意外な間違いに気付く事があります。また、ChatGPTに文法チェックして、などと投げてみるのも良いでしょう。とにかくキーポイントは「査読者/読者に余計な労力を使わせない(Do not let readers and reviewers work!)」です。

実際の論文の査読で共通しているのは、誰もがとても急がしく、査読は理想的でない環境で行われることです。頭の働いている時間は自分の仕事をするので査読の優先度は最後の最後です。これが試合のルールです。こんな時に、例えば、どこにアウトカムが書いてあるか分からない論文、研究の目的がどこに書いてあるか分からない論文を査読することになったら、どうしょうか。仮に日本語だとしても、句読点のつけ間違い、「てにおは」の間違い、誤字脱字、意味の分からない略語、飛びすぎる話題があったら指導者ですら読むのが嫌になりますよね。

また、お作法に関しては各施設で異なる部分があります。このマニュアルのお作法が絶対ではありませんが、少なくとも悪い事はないと思います。もちろん各施設のお作法を優先してください。


2. 具体的なお作法

基本的には投稿する雑誌のauthor guidelinesに従いましょう。Author guidelinesに具体的に書いていない場合はAuthor guidelineの指示を自分で勝手に解釈しないこと。Target journalで既に出版されてる論文(PDF版など)を必ずチェックするようにし、Tableのフォーマットも流用しましょう。

一般的なお作法として、下記があります。これらが絶対ではないのですが、どうせ設定するならまとめてこの設定にしておいた方が余計なことを考えなくて済むように思います。そもそも英語の原稿はレターと呼ばれる形式で日本のA4とは少しサイズが違うのですが、この点は無視して大丈夫です。

  1. フォントは指定がない限りTimes New Romanで12ポイント
  2. 余白は上下左右25mmのマージン(できれば)
  3. 行間は英語版Wordでのダブルスペース(行間2.0)
    日本語版Word文章の場合、2.0だと行間が広くて読みにくいので1.5でもよい(下記参照)
  4. 文章は基本的に左揃え(left justification)にするが両揃えでも良い
  5. パラグラフの最初は段落下げ(tabキーで)になっている
  6. I’mなどのアポストロフィ・省略形は使わない
  7. 括弧内括弧は(odds ratio 1.21 [95%CI 1.19-1.23])のように()→[]→{}の順
  8. 小数点以下の桁数を揃える
  9. 4桁以上の数字はコンマで区切る(4桁はコンマを使わない事もある)
  10. 通常使われない略語はできるだけ避ける(やりがちなので注意)
  11. 略語は必ず最初にスペルアウトし、略語を使うなら以後全て略語を用いること
  12. コロンやセミコロンなどの後は全て半角スペー スを入れる
  13. 全角スペース、全角文字は使わない(日本語だけ!記号を全角で入力した時は字体変更などで半角にすること)
  14. A, B, and Cと並列記載するとき、Bの後のコンマはどちらでも良いが論文内で統一する(筆者はコンマいれます)
  15. アメリカ英語とイギリス英語を混ぜない(Wordの「言語の選択」でイギリス英語にしてからスペルチェックをかければ簡単に変更可能)

1)論文フォーマットを整える
基本はTimes New Romanの12ptです。MacならCtrl+Aで全選択してから設定しておきましょう。また、左揃えが一般的です。両揃えでも良いですが、JAMA誌などでは左揃えを勧めています。

2)余白は全方向25mmマージン
  Wordのレイアウトタブからユーザー設定の余白を設定しましょう

3)ダブルスペースに関して

行間をダブルスペースにするのが臨床研究論文の基本ですが、日本語のダブルスペースは広いので1.5でも良いです。

下の図を見てもらうと分かるように、米国のWordでの行間2.0は日本語だと1.5に相当します。


3. コロン・セミコロン・ハイフンなど

結構いい加減な使われ方をするのがコロン、セミコロン、ハイフン、ダッシュ、マイナス、i.e., e.g.です。こういったところまでちゃんと使い分けるのは大事なことなので、適当にしないようにしましょう。

1. コロンとセミコロン

コロン(:)は何かを列記するときに使い、such asに近いイメージです。従ってコロンの後は単語などが並び、完全な文章ではありません。

We focused on the four major causes of sepsis: pneumonia, urinary tract infection, abdominal infections, and bacteremia.

セミコロン(;)は並列的な文章を繋ぎます。HoweverやTherefore などの副詞を接続詞的に使いたい場合にも使用できます。セミコロンの場合は前後ともに完全な文章である必要があります。

These factors might have confounded our inferences; however, we controlled for the …

2. ハイフン、ダッシュ、マイナス

ハイフンはマイナス記号を一回押すと出てくる短い横棒(-) です。Door-to-doorなどのように、ハイフンは単語を繋ぐ際に用います。ダッシュは正確にはenダッシュとemダッシュかあります(nの文字幅のダッシュとmの文字幅のダッシュ)。en ダッシュは区間や範囲を表す場合に使い、em ダッシュは引用や省略、副題などを表す場合や、文章をちょっと詳しく説明したい、補足したいときに用います。よく補足事項を(***)と括弧内に書きますが、そ れと似たような感じです。マイナスは当然プラスかマイナスかの時に使います。

入力方法はMacだと下記の通りです
・ハイフン:マイナスキー(「ほ」のキー)
・enダッシュ:Option + –
・emダッシュ:Shift + Option + –
・マイナス:「マイナス」と打って変換

整理すると、下記の通りになります。
まあ正直、全部ハイフンでも実際のところはそこまで問題にならないようには思います…。良い雑誌に出すときはちゃんとした方がいいでしょう。

・Door-to-doorのように単語を繋ぐ時:ハイフン
・IQR, 178–190のように数字の範囲を示す時:enダッシュ
・The secondary outcome was hospitalization—defined as **のように補足事項を示す時:emダッシュ
・−16%のように数字の負の記号:マイナス

3. i.e.とe.g.

ときどきi.e.やe.g.という表記を論文で見かけますが、これもよく間違えて使われやすいです。

i.e.は”that is”で「すなわち」「言いかえれば」の意味。ラテン語のid estからきています。
e.g.は”for example”で「例えば」の意味。ラテン語のexempli gratiaからきています。

例えば下記の文ではclass imbalance in the critical care outcome、すなわちthe low proportion of outcomeと言い換えていますのでi.e., です。ここがe.g.,だと”class imbalance in the critical care outcome”は複数の意味があって、そのうちの一例がthe low proportion of outcomeになってしまいおかしな事になります。

To address the class imbalance in the critical care outcome (i.e., the low proportion of outcome), 

一方、e.g.,はあくまで一例を示すので、数ある例の中の一つの例、という意味になります。

The decision curve analysis is a measure that takes into account the different weights of different misclassification types with a direct clinical interpretation (e.g., trade-offs between under- and over-triage for each model).


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